〜Serratia marcescens(セラチア菌)の院内感染
      はアロマテラピーで防ぐことが出来るか?〜

2002年2月7日
大磯治療院院長
Therapist Guild Japan主宰
長谷川 尚哉

 

 セラチア菌(Serratia marcescens)はグラム陰性桿菌に属する常在菌である。日和見感染の原因菌としてあげられており、尿路、呼吸気感染からしばしば分離される1)。そのコロニーから水に不溶性の赤い色素(prodigiosin)を産生するため、キリスト教の故事にちなんで「霊菌」と呼ばれることもある。しかし、人よりの分離菌では色素非産生の株も見受けられるとされる。我が国では院内感染による集団感染例が平成11年より12年に13名の死亡例を数える。厚生労働省では平成12年10月27日付け医薬安全局安全対策課長より「セラチアによる院内感染防止対策の徹底について」という書面で各都道府県衛生主幹部(局)長あてに以下のような感染防止の徹底を行うよう、指示してきた。これは平成12年、「セラチア菌による院内感染の疑い事例専門調査班報告書」が堺市院内感染専門調査班によりまとめられたことを発端としていると考えられる。その後、境以外にも東京においてもセラチアの感染が疑われる集団感染、死亡者例を出すこととなった。この為厚生労働省では平成14年1月18日、「東京世田谷区において発生したセラチアによる院内感染が疑われる事案について」を医薬局安全対策課長コメントとして新たに発表した。

 私たち一般市民においてはあまり関わりがないようであるが、家族らに入院患者、通院者を持つものにとってこれらの徹底がはかられることは安心して医療を受けるために必定である。一方私たちアロマテラピーに興味のある者にとって「精油は殺菌作用、制菌作用がある」と認識してきた。今回、事の重要性から、院内感染予防の一助となるかもしれない情報として、「セラチア菌への抗菌活性を有する精油」をリストする事とした。検証、検定を行った報文とはいささか隔たりがあるが、関係者(ICD ICN その他)にとっての基本情報の一助となれば幸いである。


1)セラチア感染予防に関わる官庁の対応と院内対策
 院内感染予防の方向性としては近年のMRSA、結核に対する予防がクローズアップされたことから、セラチアに対する予防の徹底がなされていなかったことは平成12年感染症により死亡例を出した耳原病院 池田院長も認めるところである。すなわち「個々の患者の治療と隔離の枠にとどまっていた」ということとなる。科学技術庁の全国病院検査で、「セラチア菌など『その他の菌』を監視対象として挙げた施設は8%しかなかった」ということが報告されると(平成12年8月)、厚生省は10月27日付けで「セラチアによる院内感染防止対策の徹底について」を公表した。しかしこの度、厚生労働省は本年1月18日、「東京世田谷区において発生したセラチアに院内感染が疑われる事案について」を医薬局安全対策課長コメントとして公表した。厚生労働省はそれまで行ってきた院内感染の事例と共に、厚生労働省が行ってきた院内感染への対応を公表したが、これはこれまで行ってきた厚生労働省の対応があったにもかかわらず、東京世田谷区の事案が発生、院内感染の事実関係によってはそれらの対応が徹底していなかったということを認めざるを得ない事への警鐘といえるだろう。実際には現在検証を行っている事例ではあるが、これまで我が国において集団感染者25名、死亡者13名を出していることは私たち一般市民が医療を受診することにおいて不安を駆り立てるだけでなく、その感染ルートとして明らかになっている「超音波ネブライザーの薬液未交換、患者間の併用」「静脈留置針および三方活栓の取り扱い」「消毒用アルコールの種類、濃度及びその消毒効果に対する過信」「アルコール綿の取り扱い・保管」等に問題があったことに対する医療消費者の不安をかき立てることとなった。更に報告でネブライザー薬液、石鹸箱、ハンドソープなどからもセラチア菌が検出された事が明らかとなり、医療機関におけるセラチア菌院内感染への意識が低いことが明らかとなる結果となった。先の耳原病院では一件の後非常に迅速にサーベイランスの充実、専門家の育成など対策が練られているが、結果として本年の事例が報道され、一般市民はそれらに対する危機感を持ち始めている、ということは否めないといわなければならない。

2)院内感染〜外来における感染
 我々医療消費者においては、外来受診により、診察検査診断を経て入院、加療などのプロセスを経ることは経験的に理解している。しかし、今セラチアに関わる報告では入院、手術後など日和見感染に関与しそうな感染例とは異なる事例の報告が気になるところである。それはネブライザーなど、外来受診における処置の器具の消毒に関わるものである。耳鼻咽喉科外来への受診は様々な年齢層が経験するものであることから、それらの報告により患者一般に心理的不安感を与えることは考えられる。厚生労働省によると、調査により以下のようなことが報告されている。

 

超音波ネブライザーの運用法は、薬液未交換のまま、患者間の共用であった。また超音波ネブライザーに対する消毒薬は、一部のセラチアに効果が低いと報告されている塩化ベンザルコニウムが用いられていた。(医薬安127号平成12年10月27日・厚生省医薬局安全対策課長報告)

 

この記載の他、耳原病院によれば逆性石鹸を利用していた。これは超音波ネブライザーのメーカー説明書に記載された消毒法の記載に準拠したものであり、またその後の乾燥法に関わる記載がなかったことが原因としてリストされている。セラチアは水に親和性が強く、濡れた状態で自然乾燥すると菌がつく可能性があると、前出池田院長は報告している。

 次に、厚生省の報告における「消毒用アルコールの種類、濃度及びその消毒効果に対する過信」が挙げられる。

 

消毒用アルコール(濃度50%イソプロピルアルコール)綿の消毒効果に対する過信があった。50%イソプロピルアルコールを用いた場合、使用法によってはセラチアの消毒が完全でないことが「東京都不明疾患調査報告書」(平成12年3月。班長 増田剛太 東京都駒込病院感染症科部長)に示されている。また70%エタノールについても同様に保管法や使用法が適切でないと、消毒効果が減弱する事が以前から指摘されている。

 

外来医療の現場では、我々医療消費者は注射などの際、皮膚面の消毒を経験する。その際の消毒用アルコール綿は多くの場合、先に多量に作り置きされているものを目撃している。これらは入院患者においても同様であると考えられる。

3)院内感染〜病棟における感染
 病棟においては入院時に経験する点滴、特に静脈留置針、三方活栓の使用はすでに一般的になっている。その際に用いられる器具の消毒にも問題があるようである。
耳原病院によると点滴に関わる留置針挿入手技、留置針の管理、三方活栓の管理、側管点滴、点滴液の調整、点滴の継ぎ変え、ヘパリンロックとそれら全てに関わる消毒が感染経路の可能性がある、としている。同病院によれば消毒には50%イソプロピルアルコールを利用しており、ヘパリンロックは50%イソプロ消毒後で行ってきた、としている。
 50%イソプロ綿は週一回交換し、その間は継ぎ足し使用をしていた。イソプロ綿は素手で取り出していた。イソプロ綿の細菌検査は陰性であった。
 現在は消毒のイソプロアルコールは50%より70%に変更した。イソプロ綿は継ぎ足し使用をしないで一日二回作り直すことにした。綿の取り出しは手洗い後手袋装着で取り出すことにした。針の挿入は手洗い後手袋を装着し、70%イソプロ+イソジン消毒とした。点滴注射準備・実施は手洗い後、プラスチック手袋使用を原則とした。留置針の管理は透明ドレッシングを添付し観察を容易にし、針は72時間以内に交換することにした。三方活栓の使用は禁止した。ヘパリンロックの使用を禁止した。とされている。
 以上のような感染予防対策が早くから行われていれば我々医療消費者は安心して医療を受けられると考えることが出来そうである。しかし、我々の身の回り全てがそれらの対策を行っているかは不明であるといわなければならない。


4)院内感染の一助にアロマテラピーは貢献できるか?
 我々アロマテラピーを行うものにとって「精油」は制菌、抗菌、殺菌作用があるものとの認識は一般的なものであるといえる。それらの後ろ盾は伝承的なものであるというより、むしろ香料化学の検証報告から来るものであることは意外と知られていない。それはアロマテラピーの先達、特にJ.Valnet(医師)のインドシナ戦争での臨床例から来るものが大きいと考えられてきた。しかし、香料化学、医学の検証の中にアロマテラピー精油の効用を実際の検証方法で行った報文も実在しているようである。以下に示す。

アロマテラピー精油の制菌、殺菌作用などの検証

ライデルウォーカー指数

アロマテラピー精油でもライデルウォーカー指数を10以上に指定された精油が存在する。
MIC(最小発育阻止濃度)
の研究
香料化学の研究者達によるMICの測定は多くが行われている。しかし、対象菌の当時の話題性がMRSA等に偏り、セラチアを除外していることが残念である。
精油に含まれる成分の
抗菌作用
研究者による成分ごとの抗菌作用の検証が行われている。A.M.Janssen, J.J.C.Scheffer, A.B.Svendsenらの1987年の報告など。
各々の精油の検証例 精油のサプライヤーによる個別の抗菌活性等の報告が行われている。
類似構成をもつ精油の検証 特定の検証されている精油と類似する植物精油の構成成分比較が行われている。

 

上記のように様々な観点からアロマテラピー精油も殺菌、制菌力を検証した報文があり、その点で今般のセラチア感染の予防の一助となる可能性があると考える。

 セラチアのMICに関する報文で筆者が見つけることが出来たものは以下のものである。これらは公的機関及び、海外の検証機関のものとして信憑性があるものであると考える。


5)精油の殺菌、制菌に関わる検証の紹介
 セラチアに対する検証では「ティートリーオイル:オーストラリアでの現状と日本市場の可能性」(三嶋 健:aromatopia. No.22(1997): 9-11)において、MICの成績が大阪府立公衆衛生研究所のデータとして掲載されている(データは日本化学療法学会の標準法の寒天平板希釈法[五島瑳智子ら、chemotherapy,29 . 76-79(1981)]に準じている)。MRSA、Staphylococus epidermedis, 等とならんで、Serratia marcescensへの数値が記載されている。これによるとティートリー油はセラチアなど様々な菌種に1%程度の濃度で発育阻止が認められている。

 一方、ブライアン・ダウンター(Dr. Brian Daunter)の報文 " Practical Data on The Treatment Using Tea Tree Oil" (aromatopia. No22(1997) :37-42)ではPenfoldらのデータを基に再検証したMIC値の検査においてもセラチアへの検討が行われている。発育阻止濃度は0.2-0.3%(この検証では同一精油のterpinen-4-olの濃度の異なる2種の精油による比較検討)となっている。

 国内では岡部敏弘らが「青森ヒバの不思議」(青森ヒバ研究会:1990)において青森ヒバの最小発育阻止濃度の検証を行っている。ここでは「霊菌(セラチア)」の検証例が記載されている。これによると黄色ブドウ球菌などとならび、霊菌の最小発育阻止濃度は100マイクログラム/mlであり、青森ヒバ(ヒノキアスナロ:Thujopsis dolabrata Sieb. et Zucc. var. hondae Makino)精油はセラチアに活性があることが報告されている。青森ヒバ精油にはツヨプセン、β-ツヤプリシン(ヒノキチオール)などが含まれていて、その抗菌活性が示唆されている。

ライデルウォーカー指数は一般には「石炭酸指数」と呼ばれている。先に記載されたティートリー油(Melaleuca alternifolia)は前出のPenfoldらの検証でライデルウォーカー指数は「11〜13」であり、かつフェノールと比して皮膚可塑性等の心配がないとされている。ライデルウォーカー指数の記載が見受けられるものを表記した。

 

ライデルウォーカー指数

精油名

数値
(Rideal)
数値
(Fuhrer)
備考
ボアドローズ
5.4 
6.0 
産地などは不明であるが、植物名Aniba rosaeodoraは主たる構成成分はリナロールであり、その比率は80%を越える)
シナモンリーフ
7.5 
-
シナモンリーフは産地による構成成分の違いが大きいと考えられる。このデータによると産地が不明であるが、シンナムアルデヒドよりオイゲノール量が多いものである可能性が高いと考えられる。
クローブ
8.0
8.5
クローブ:植物名Eugenia caryophyllataは抽出部位により構成成分が異なる。多くは蕾より蒸留した精油であり、オイゲノールが主成分である可能性が高い。オイゲノールの比率は80%を越える。
ユーカリプタス
1.6
-
ユーカリプタス:Eucalyptus属は様々な亜種が存在するが、過去、多く評価されてきたのはEucalyptus globulusではないかと思われる。1,8cineoleが主成分となる。

*評価者Ridealは1927年、Fuhrerは1972年の検証の結果である。係数の低いものは割愛した。(石川 久史:「ペパーミントの抗菌・抗アレルギー作用とチューインガムへの応用」aromatopia. 68-73.表4, No.10(1995)より抜粋。

一方ライデルウォーカー指数では精油の構成成分となる単離された成分についても検証されている(下表)。以下のように芳香成分はその種によっても抗菌活性が異なるが、多くのフェノール類に、活性が高いものが多い。しかしそれらは当然の事ながら皮膚可塑性が認められるとされ、経皮的利用法を推奨されていない。

単品香料物質名 指数

シネオール

3.5

メントール

20

メントン

10

イソメントン

14

ベンズアルデヒド

9

シンナミックアルデヒド

17

チモール

25

オイゲノール

15

 

 抗菌活性では様々な成分ごとの検証もなされている。A.M.Janssen,J.J.C.Scheffer,A.Svendsen,(Planta Medica,54,395-398,1987)は精油成分の抗菌、殺菌作用を様々な成分で検証を行っている。以下に示す。



精油成分の抗菌活性(単位は阻止帯の直径m/m)

精油成分

Escherichia
coli
(大腸菌)
Pseudomonas
aeruginosa
(緑膿菌)
Salmonella
pullorum
(サルモネラ)
Staphylococcus aureus
(黄色ブドウ球菌)
borneol

0

0

0

0

camphene

5.0

0

0

5.5

campher

0

0

0

5.0

carvacrol

24.0

27.0

21.5

24.5

1,8cineole

14.0

10.0

13.5

17.0

p-cymene

9.5

10.5

9.0

12.0

eugenol

18.5

15.5

21.0

22.5

β-humulene

10.5

13.0

14.5

9.5

limonene

12.0

10.0

9.0

9.0

linalol

10.5

7.5

9.5

12.0

myrcene

5.5

4.5

5.0

0

myrtenol

8.5

9.5

7.5

6.5

α-pinene

9.0

8.5

9.0

10.5

β-pinene

13.0

11.5

12.0

7.5

γ-terpinene

12.5

11.0

7.5

9.0

α-terpineol

14.5

13.5

9.0

14.5

thujone

0

0

4.5

0

thymol

21.5

25.0

23.0

21.5

A.M.Janssen,J.J.C.Scheffer,A.Svendsen,Planta Medica,54,395-398,1987より抜粋


 上記のように様々な芳香成分が多くの菌種に対して抗菌活性があることが分かっている。それら精油の成分構成からみた抗菌活性の可能性を筆者は「栽培種エジプト産Origanum majorana、フランス産Origanum majoranaMelaleuca alternifoliaの比較研究 第1報」でまとめた(aromatopia: 55-60. No.40(2000))。これはシソ科のエジプト産栽培種Origanum majoranaの成分構成がオーストラリア産Melaleuca alternifoliaに類似していることから、抗菌活性などの可能性が示唆されるが、アロマテラピー関連文献ではその記載は少なく、Origanum majoranaは「鎮静」の代表的精油であるとの理解が一般的である、しかし、構成成分の類似性から「鎮静といわれる精油でも抗菌活性が見られるのではないか?」というものであった。

この様に、アロマテラピーの抗菌、制菌作用の検証は多く行われているということをお知らせしたい。

6)アロマテラピーを院内感染予防などに利用するメリット(筆者案)
アロマテラピーを院内感染の予防に利用するメリットを筆者なりに考えてみた。多くの消毒薬と比較しながら考えることとした。

 

一般消毒薬
アロマセラピー精油
多くは無臭、または刺激臭。香料を安全性の喚起のために使用しているものがある(ヒビテンなど)。水溶性の消毒薬が多い。 成分自体が芳香性を有する。(これは成分の揮発などによる嗅覚認識の可能性を示唆してはいないか?)極性のない、または低い物質であり、揮発性が高いものが多い。
食品添加物として利用され、人体に対する安全性を検討できる(精油による)。

 

 一般的に消毒、というと、我々は鼻を突く香りを想像するものである。これはクレゾールなどの殺菌消毒薬が主流であるからであり、殺菌制菌はそれらの「強力な殺菌力によって発揮」されていると考えてきた。しかし、これまでの記載のように様々な芳香成分(刺激的な芳香を有するものも存在するが)が抗菌活性をもつことも分かっている。とりわけ、フェノールのような経皮刺激の少ないメントール、terpinen-4-ol、などを用いることでネブライザーなど皮膚に用いる医療器具への消毒を検討する事が出来ればいいのではないかと思う。
 アロマテラピー精油を利用することは多くの医療機関で実施されてきた。これらの多くが感染症対策であり、特にMRSAに対するものであることは興味深い。その他、アロマテラピーの効用として一般的に理解されている「香りによるリラックス効果」、「リフレッシュ効果」などが検証されているが、筆者は院内感染などに利用する際の精油の有用性は「嗅覚認知できうること」というものなのではないか?と感じている。すなわち、抗菌性などの変化を50%イソプロピルアルコールなどでは時間的管理を行わなければならないのに対し、芳香成分を嗅覚認知する事が出来る場合、「患者、及び従業員が嗅覚を用い、その抗菌性の予想を出来る可能性があるのではないか?」という点である。検証がまたれるところであるが、香りとして認知できなくなったときに抗菌活性のある精油を追加することで、もし殺菌性を補完、復活する事が出来るのであれば、時間的管理の煩わしさと比して、官能的に有用な指標になるのではないか?と考えることが出来ると筆者は想定している。

7)検証の必要性
 アロマテラピー精油をこれら医療機関で利用する場合、残念ながら筆者にはより説得力のある検証報告をする術がない。これは経済的、学術的背景に劣るからであるが、筆者の想定に興味をお持ちいただき、検証する方向性があるとするなら、どのような事を行う必要があるか?について考えてみた。

 検証にはセラチアのみならず、院内感染の可能性が示唆されている菌群の複数検証が必要であろう。検証方法はより実践的に行える菌数の評価、ハロー検査法、MIC、等が適当と考えられるが、その際の精油成分の濃度に関して最大効果を示す比率の検証も必要となるであろう。それらによる検証を経て、有効性が証明されれば「アロマテラピー精油がセラチア院内感染防止に貢献できる」ということになる。

検証を行えると筆者が考える精油は以下のようなものである。


Melaleuca alternifolia(ティーツリー)オーストラリア産
 殺菌性ではアロマテラピー精油の中でも多くの検証例が実在。香気はシャープでなじめないという向きもあるが、皮膚感染症に原液塗布などを利用している例もある。terpinen-4-olを多く含み(最低30%)1,8cineole量の少ないもの(最大15%)がISO 4730で承認されている。

Origanum majorana(マジョラム)エジプト産
 筆者が報文にて取り上げたもの。Melaleuca alternifoliaと以上に類似した成分構成をもつ。terpinen-4-olは30%前後、1,8cineoleは含まないか極少量となる。Melaleuca alternifoliaにはない少量のエステル類からか、「鎮静作用」を記載した文献が多い。Melaleuca alternifoliaに比して「まったりとした(鎮静系の)」香気との評価が多い。

Mentha piperita L.(ペパーミント)仏、及びアメリカ産
 ロッテ研究所及び昭和薬科大の共同研究にて「病原性大腸菌O-157」の完全殺菌の報告がある。メントール及びメントンの含有が多い。

Mentha arvensis(コーンミント)ベトナム産
 筆者推奨。コーンミントはメントール含有率の高い精油であり、メントン量が少ない。ライデルウォーカー指数から考慮すると、メントン量がより少ない事で希釈濃度が低くても抗菌活性が得られる可能性があると感じる。

Cinnamomum zeylanicum p.o. burk(シナモン樹皮)スリランカ産
 桂皮として漢方薬の世界でもおなじみである。皮膚への塗布には向かない精油であるが(皮膚可塑性から)、主成分のシンナムアルデヒドの含有量はおおむね60%であり、ライデルウォーカー指数から考えると、空気拡散などによる院内環境の変化に有用かと考えられる(実際、甘い、シナモン独特の香りを有する)。器具などに成分が残ると皮膚、粘膜刺激性が考えられるかもしれない。

8)まとめ
 芳香成分には嗅覚で認識出来るという面があるばかりでなく、その抗菌性、院内環境に変化を付けることが出来る、空気の清浄化など様々な可能性を秘めていると考えることが出来る。当Therapist Guild Japanではアロマテラピー精油の実際の効用などの情報をMEDLINE、TOXLINEなどから検証、啓蒙する作業を行っているが、それらにはアロマテラピー精油の今迄触れられていなかった「検証された効用:伝承的に伝えられたものも含むが、その信憑性を検証したものなど」が多く存在することが分かった。その点を認めていただき、新たな可能性の検証を行っていただければありがたいと感じている。この報文で取り上げた精油のうち、検証を行いたいとお感じになる医療機関には、検体となる精油の供給を行いたいと考えている。ご一報いただければ幸いである。

参考文献
 「当院の院内感染問題での五つの反省と改善点」
 
耳原総合病院院長 池田信明
   
「セラチアによる院内感染防止対策の徹底等について」
 
(平成12年7月4日医薬安第88号)
 「セラチア菌(Serratia marcescens)による
    院内感染の疑い事例専門調査班報告書」
 
(平成12年9月3日)堺市院内感染専門調査班
(班長 本田武司 大阪大学微生物病研究所教)
   
「セラチアによる院内感染防止対策の徹底について」
 
(平成12年10月27目医薬安第127号)
   
「セラチアによる院内感染防止対策の再徹底等について」
 
(平成14年1月21日 医薬安発第0121001号)
   
 「東京都世田谷区において発生したセラチアによる 院内感染が疑われる事案について」
 
(平成14年1月18日医薬局安全対策課長コメント)
   
  他、アロマテラピー関係関連文献は文中に記した。

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